親友が好きすぎてヒトカラで名脇役20回歌った

どこにいても、何をしていたとしても、君のことばかり思い出し、おとなしく苦しんでいる。



気づくと教授が私に話しかけてきている。
ぼーっとした頭の片隅をぶん回して返事をすると、何かを褒められた。
ありがとう、さすが私の頭脳。今日も冴えてるね。

それなのに、こんなに頭がいいのに、どうして分からないんだろう。
どんなに考えても分からない。


何故なのでしょう?
告白したわけじゃないのに、別に振られたわけじゃないのに、私は何故苦しむんでしょう?




高校からの親友が仕事で東京に越して、もう一年以上になる。彼女には今恋人はいない。
この間久しぶりに会ったとき、彼氏がほしいか聞いたら、「うーん、そんなにかなぁ~」と言って笑っていた。
間も調子も表情も、あまりに自然だった。


だから何なのだろう。
今さらどんな返答を期待してたんだろう。
彼女には彼氏がいたこともあるし、子供のころ好きだった人も男の子だった。


そういえば以前2人で遊んでいて帰る時間になった時、
「どうしてそんな悲しそうな顔してるの笑」
と言われたことがある。
「また会えるじゃん」と呆れて笑う彼女に、私も笑顔で手を振った。

"どうして"じゃねぇだろと思いながら、こんなに悲しいのは自分だけなのだと悟った。


思えば彼女といる時感情をあまり出さなくなったのは、あの時からかもしれない。
無意識に感情そのものまで抑えるようになったのも。



どうしてこんなに苦しいんだろう。


それはたぶん、分かってるから。
ってそれさえも分かりたくない。


もういっそ、もうずっと……




…待って、私さっきからとんでもない名曲歌ってない?




"思い出したくもないよなんて 思えば余計にもっと
身体でも頭でもない心が動くの"

(そうそう、心がね、わかるわかる)


"困らせないでよ 苦しくさせないでよ
そんな風に優しくすんなよ"

(そうそう、押すなよ?絶対押すなよ?的なね、わかる、すごいわかるぞ)


"何にも知らないくせして 「どうしたの?」なんか聞いてくんな
他でもない君でこんな始末になってるんだよ"

(えっ…)


"なんて言えるわけもない 僕はいつもと同じ顔で言う
「なんでもないよ」"

(この曲書いたのって私だっけ!?)



気づくと一人でカラオケに来て、Sexy Zoneの「名脇役」を連続で5回歌っていた。


名脇役

それは言わずと知れた史上最強の片想いソング。

全時代、全国と地域、全銀河系で親友に片想いしている全ての者の魂の声を、優しく真っ直ぐに代弁する歌だ。


一行一行、一言一言すべてが共感る(わかる)、激同りまくる(わかりまくる)。胸にブチ刺さり、脳ミソを砕く。

"それはたぶん わかってるから"
で絶望しそうな心を、
"ってそれさえも わかりたくない"
が優しく掬う。
わかってるのにわかりたくない臆病さに、わかりたくないのにわかっている怖さに、そっと寄り添う風磨が餅よりモチモチしている。


聴こえますか?
全宇宙の片想イストたちの、声にならない「わかる」の声が……


名脇役へのわかりみから溢れた涙を、時空を越えて集めて出来たのが、太平洋だと言われています。(言われていない)



6回目を歌いながら考える。


"「世界探したら 星の数ほど他にも 女の子はいるから」
なんてこと 聞いた気するけど"


正直、彼女以外を好きになったことはないから、女性が好きなのか両性好きなのか、自分でもよく分からない。
男性アイドルが好きだし、彼女が好きなのも女の子であることが理由ではないから、性別にこだわりはない気もする。

女の子だけでも星の数ほど、男女合わせればもっと、この世にはどえらい数の人間がいる。
もしかしたらその中に私を好きだと言ってくれる人もいるかもしれない。


それなのにどうしてだろう。君がいいのは。


LINE全然返信しないし、気まぐれで、わがままで、有線のイヤホンはすぐ断線させるし、ワイヤレスイヤホンはすぐ失くすし、味が濃ければ何でもうまいって言うし、でも私が折れそうな時に何故かタイミングよく連絡くれて、小さすぎて不恰好な爪も何だか可愛く見えてきて……そして……あれ?いつから褒めている?


いやマジで君の何がこんなに好きなんだろう。
そんなの数え上げりゃキリがない。君を形成る全ての要素を愛してるから。(突如現れるミスチル)



いや、答えなんかはいいんだ。


ただこの間の電話の声が優しくて、相槌が溶けそうで、こんなに優しい声で話してくれるなんて、この特別さを君が感じてないわけなくない?とか思ってしまう。

だけど全部当たり前のことだよね。
君の声が優しく聞こえるのは、私の心がフニャフニャになってるからなんだろう。
目が合うのも、手が触れるのも、友達なんだから当たり前だ。


それなのに会うたびいつも、

ただちょっと目が合ったくらいで「もしかして」なんて思ってしまって、余りのバカさに思わずもう笑えてくる。

きっと何の意味も持たないその仕草に、私はまた振り回されるんだ。



だけど、彼女が親友として私を大切に思ってくれているのも事実で。

何人かで一緒にいたとき私にだけどっさりチョコくれたし、私が落ち込んでる時は心配してくれるし、嬉しかったことや楽しかったことを逐一報告してくれる。


それを思うといつも心の底が温かくなる。
私こんなに幸せでいいのかな?と心配になるくらいに。


愛は多種多様なんだし、もし彼女が私に向ける友情がとても大きくて美しいものだとしたら、それもまた愛とは呼べないだろうか?
そうだとしたら、そして彼女にこの先も恋人ができないなら、少なくとも彼女に恋人のいない今は、私が彼女の一番なんじゃないか?
それってつまり最早、愛し合っているのと何が違うのだろう。



という具合に、

また同じ"たられば"を繰り返して、"友達"という肩書き背負って、何とかギリギリ君の隣にいられるのです。



もう本当に、



何かしらの間違いでいいから、
私のものになってくれないかな?




"忘れさせてもくれなくて むしろ忘れたくなんかないって
身体でも頭でもない心が言うのです"

(そう、忘れられないとかじゃなくて、忘れたくないんだよ!君に滅茶苦茶にされる人生の方が、君のいない平穏よりずっと良いんだ!)


"だからもう 困らせてよ 苦しくさせていてよ
そんな風に優しくしといてよ"

(本当にそう!君にもらった苦しみだと思うともう愛しく思えてくるもんね!)



ラスサビに来ると毎回声が震える。
泣いてるのか笑ってるのかも分からない痙攣で。


気づけばもう20回同じ曲を歌っている。
通りすがりのジャニオタはきっと察しただろう。


本当にもう、この曲に関わった全ての人にありがとうを言いたい。
この曲がなかったら、ただ黙って自分の気持ちの重さに耐えきれずに潰れて超新星爆発を起こしていたかもしれない。
竹縄さん、アンタ宇宙を救ったよ。



次はいつ会えるだろう。
普段どんなに悶々と苦しんでいても、彼女に会えばその瞬間に何も要らなくなる。

だからこそ、何年経っても何も起こらない。
いつも"今日こそは"と念じながら会いに行くけど、一目見ると欲しいものを忘れてしまうから。
「あれ、これ以上何が欲しかったんだっけ?さっきまでの私気ィ狂ってたのかな?」と思ってしまう。狂ってるのはお前だよ。


今は何をしてるだろう。
今日は何を食べただろう。
夜はよく眠れているだろうか。
会社ではどんな声で話してるんだろう。

いつかは君も誰かの妻や母になるのか?
君はブッ飛んでる所もあるけど常識人だから、きっと友達よりも家族を優先するよね。
幸せな家庭しか思い浮かばないのに、眉間に皺を寄せる自分が嫌いだ。


それでもずっと、死ぬまで私は、君に幸福をもらい続けるんだろう。




そんなことばっかを考えていること、
君が知るのはいつになるかな