第1話 保存してもうた
2011年9月30日の朝、私はトガっていた。
その日のニュースは前日に発表されたSexy Zoneの結成・デビューで持ちきりだった。
勝利くんの「Sexy rose…」の囁きの直後に起こる、狂乱した女の子達の大絶叫。全身白スーツに身を包んだ年端もゆかぬ少年たち。
正直マジで意味が分からなかった。完全に「彼らはイカれています。 They are crazy. 」という感じで家を出た。
無理もない。
当時の私は中学生で、「ロックンロールしか信じてません」みたいな時代錯誤も甚だしいキレた子どもだったのだ。しかも哲学書と夏目漱石の小説が好きで太宰治が嫌いだった。好きな漫画までもが浦沢直樹のMONSTERだった。
もちろんアイドルはバチボコ馬鹿にしていた。特にジャニーズなどワケの分からなさがワケ分からなすぎて、「バカが見るもの」と決めつけてさえいた。
そう。あの日、ジャニーズは私から最も遠い存在だったのだ。
時は流れ、大学生になった私はすっかり丸くなっていた。
今や友達と一緒にタピオカ吸い込んだり少女漫画の実写化観たりも出来る。まるい。まるいぞ。
そしてジャニオタの友達(以下Y氏)の丁寧な指導により、ジャニーズへの偏見もだいぶなくなっていた。時代はリベラル。そう、私はリベラルを気取っている。大学生なので。
多様性を支持してはいるが好き嫌いはある。
ドストエフスキーと山下達郎が好きでOfficial髭男dismが嫌いだ。髭が生えてないからではない。奴らには主義("ism")が無いからだ。
関係ないけど山下達郎のRIDE ON TIMEの2番、「RIDE ON TIME 心に火を点けて」の「点けて」がヤバい。ねっとりした発音と「け」が僅かに前のめりに入る絶妙なリズムの崩れで、最強無限のグルーヴが爆誕してしまう。マジ達郎。
脱線した。すみません。
話を戻すと、とにかく私はもうジャニーズを馬鹿にはしていなかった。
しかしそれでも、ハマる心境は分からなかった。だって達郎の方が歌上手いし、見た目も海外の俳優とかの方が美しい。今思えばそういう問題ではないのだが。
そして2019年5月10日。
ネルソン・マンデラが南アフリカ共和国第8代大統領に就任してからちょうど25年が経っていた。その日、私のスマホ画面にも変革の風が吹き始める。
いつものように虚無の顔でスマホをいじっていたら、ジャニオタのY氏からLINEが来た。
開くと、とんでもないとてつもないエモサブカル美青年の写真が大量に送られていた。
私は息を呑みすぎて死にかけた。
「えっなに」「はっだれ」
咄嗟に出た言葉はそれだった。
完全無欠の鼻筋と憂いのある睫毛、どこかぎこちない笑顔、その繊細で危うい空気と奇妙にマッチする頑丈な肩は、兼ねてから人間の関節を愛する私の胸に深く強く響き渡った。
もうお分かり頂けただろうか。
彼こそが、当時まだJr.だったSixTONES 松村北斗さんだったのだ。
ほとんど無意識のうちに親指を素早く動かし、私は呟いた。
「保存してもうた。」